海に出るつもりじゃなかった

眠れない夜は長いので適当な与太話でも。

 

まず一昨日の夜は歯が痛くて痛くて市販の安い鎮痛剤を8錠ほど呑んだが効かずに最終的にイブを正しく許された範囲内で呑んだら治った。でも泣きながら彼氏に電話した。18日の9時から会うことになっているのに痛くて仕方ないからODして意識をなくしてもいいかと。彼氏は文面では駄目だといったが号泣するわたしに驚いたのか許してくれた。しかしラリったら会えないし、記憶もなくなる。それも嫌だったわたしは痛みが治まるまで彼氏に甘えてヨシヨシしてもらった。腕も切るし口内炎は噛むし爪を立てられるのも引っ掻かれるのも噛みつかれるのも好きだが、歯痛だけは嫌いだ。余談だが低温蝋燭も苦手だった。慣れたら気持ちいいかもしれないが、よくわからない。見た目はいいのにね。

痛みが治まったので入浴したが、この辺りで精神的に限界がきて自分がなんなのかわか、なくなり全てに恐怖していた。また、最近妄想が酷い。家の廊下を歩くときの曲がり角で、トイレを済ませて開けた扉の外に、窓に、洗面所に立つわたしの後ろに、そいつがいる気がする。そいつとはつまり、怪物だ。詳しく記載するのはよすが、見た瞬間SAN値チェックが入るし、一時的狂気で済むかも怪しいヤバいやつだ。わたしはそいつをとてもとても恐れている。毎日がホラーゲームのプレイヤーの気分だ。朝でも夜でも物音にビクついている。元々真っ暗な部屋では眠れないたちではあったが、いまは暗闇、見えないこと自体が怖い。眼鏡もなるべく外したくない。ああ、窓に!窓に!

とにかく妄想、精神的疲労により引き起こされた混乱で、眠っていた母に泣きつき一緒に寝てもらった。3時間睡眠。夢は見なかった。

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ツイートと彼氏とのLINE。

翌日死ぬほど気が乗らなかったがもう決めてしまったのでゴスロリを身に纏い、化粧をしていると、頭の中でだんだん音が大きくなってきた。説明しづらいのだが、自分の思考が音声化された声のボリュームが上がり、まるで頭蓋に反響しているようでわんわんするのだ。激しい動悸、困惑、理解できない状況、叫び出したい、怖い、不安、これは駄目だ気が狂うと思った。昨日とは違うパニックだった。そのときとっさに化粧ポーチの中にリスパダール液を入れていたことを思い出したので、慌てて取り出し流し込んだ。苦さに少し冷静さを取り戻し、無音の部屋がいけないのかもしれないと考えてテレビのついたリビングに向かった。リビングで母と話すうちに徐々に落ち着くことができた。かなり止められたが、その後外出もした。彼氏に会うためにだ。その日は一日体調が悪かったし、彼氏にも迷惑をかけ、初めて行った念願だった赤からの鍋もあまり食べられなかったが、わたしには彼氏と会うことも治療だから許してほしい。帰宅して化粧も落とさずに翌日の13時まで爆睡した。10時からの病院はブッチした。

 

歯医者の予約はまだ先だがあんまりにも痛いので今日起きたら電話しようと思う。夜になると痛くて痛くて仕方ない。一日イブをキメていた。さっきはテルネリンをスニッフした。喉がイガイガするが、だいぶ眠気が出てきたのでよしとしよう。

 

みんな、歯は大事に。わたしは次回抜歯です。死にたい。

ルララ、燃える横浜中華街

一つ前の記事に前に書いた小説を載せたわけだけど、むかしの私に一言。ガソリンは火をつけると爆発するよ!せめて油にすればよかった…浅い知識が露呈してしまった…。事前調査はだいじだね。

 

今日は彼女と私の母とでランチ会をしてきたよ。新宿で美味しい中華を食べました。あまり時間がなかったからしっかり話せたわけではなかったんだけれど、顔合わせとしてはまずまずだったんじゃないかな。

彼女「目元が似てる」

私は個人的に母よりも父に似ていると思っていたんだけれど、別に言われるのは嫌ではないからよかった。若い頃の母はそれなりに綺麗だったしね。

 

昼食を摂ったあとは、新宿からそのまま父のお見舞いにいった。仕事中に脳出血で倒れた父は左半身麻痺で現在リハビリ中。今日は久しぶりに会ったけど、だいぶ歩けるようになっていて感激した。父は努力家だし真面目だからきっと大丈夫。先は明るい。悲観的な私が珍しくそう思えた。私は父の生命力を信じている。

 

病院ではさっき点心をたらふく食べたあとなのにあたたかいアップルタルトと紅茶も飲んで、満腹。しかもアップルタルトはすごく美味しかった。また食べたいくらい。わたしは林檎が好物なんだけど、自分で言うのもなんだけど好みがうるさくてあまり口に合うのがないからアップルタルトやパイは避けがちなんだけど、気紛れに試したここのカフェのは美味しかった。ハッピー、700円の幸福。美味しいものを美味しく味わうことのできる喜び、あるいはその余裕がやっと生まれてきたかもしれない。私は私を取り戻しつつある。喜ばしいことだ。

 

今日のランチ会には彼女にいただいたワンピースを身につけてきた。淡いブルーに花柄の上品なワンピースは、普段喪に服しているように黒ばかり着ている私には新鮮だった。似合うと褒めてもらえて重ねてハッピー。元来着飾ること、洋服を選ぶことは好きである。一時期は外出もできないくらいに自分の容姿がコンプレックスだったわたしも、近年はめっきりナルキッソス。自己愛もはなはだしい。

明日の彼氏との逢瀬もゴスロリを着ていくつもり。胸が踊る。遊び人である。

 

しかしながら歯が痛い。七転八倒まではいかなくてもタップダンスを踊るくらいには痛い。じくじくする。昨日歯医者に行ったがどうやら奥歯は抜歯になるようだ。やれやれ。だけど歯磨きができないから仕方ない。総入れ歯の日もそう遠くない。総だけに。

 

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今日の日はさようなら

去年書いたヤンデレズ、手直ししてないけど載せちゃうよ!

 

 

 

 

 

ぱちぱちとまきが燃える音。煙の匂いには野蛮なものがある。夕食のあとはいつも暖炉の前で過ごす私に、息子が苦笑して言う。
「母さんは火が好きだね。いつも見ているじゃないか」
「ええ、そうね。好きよ」
裁縫をする手元に視線を戻しながら、私は蘇る記憶の波に溺れていた。
炎を見ると思い出す人がある。わたしがまだ十三歳の少女だった時。もう何十年も昔のことだ。その頃私はイギリスの、とある全寮制のカトリック学校に通わされていた。
古くから続くその学校は規律正しい生活と、厳格なキリスト教の教えを守っていることで有名だった。朝の礼拝、食事の前のお祈り、眠る前の懺悔。窮屈な生活だったが、わたしはそれが嫌いではなかった。
変わらない生活、変わらない毎日。私は日々に倦んでいた。そんなある時だった。彼女がふいに私の目の前に現れたのは。
転校生として紹介されたその少女は、驚くほど美しかった。私もクラスメイトの皆も、その姿に目を見張った。漆黒の髪を腰まで伸ばした彼女は、黒く輝く大きな瞳と、薔薇の蕾のような唇、滑らかな細い首を持ち、華奢な体躯は愛らしく、まるで人形のようだった。
「西園寺百合子です」
赤い唇からこぼれる声は甘く、可愛らしかった。彼女は教卓から歩いてくると、私の横に座り、にっこりと微笑んだ。
「よろしくね」
その笑顔は眩しく、私は赤くなり、なんとか頷いた。彼女と私は同室になることが、教師から告げられた。
「あなた、可愛いわね」
 教科書を広げる私に、百合子は私の編んだ髪に結ばれた繻子のリボンをつまんで言った。
「そんなことないわ、百合子さん。皆あなたに夢中よ」
「百合子でいいわ。金色の髪も、青い瞳も、ビスクドールの肌も、あなたが一番きれいだわ」
「あなただってまるでショウ・ウィンドウの中のお人形みたい」
 百合子はかくりと首をかしげてみせるとおどけて笑い、黒板の方を向いた。
誰もが百合子に魅了された。休み時間になるとクラスメイトの女の子たちは百合子の周りに押しかけて、彼女の容姿を褒め称え、話を聞き出そうとして必死になった。男の子たちは遠巻きに、しかし熱烈に百合子を見つめて、気を引こうと躍起になっていた。
また、百合子は勉強ができた。先生の質問にもさっと手を上げて、すらすらと答える。字もうまく、運動もでき、クラスのかけっこでは一番になった。百合子はすぐにクラスの女王として、教室に君臨するようになった。
「綺麗な髪の毛」
 クラスメイトの女の子が、うっとりと百合子の長い髪を撫でる。百合子はその手を払った。
「お父さんは何の仕事をしているの?」
「お父様は貿易の会社をしているわ」
「兄弟はいるの?」
「いないわ」
「あなたみたいな可愛い子初めて見た」
「そう」
 やがて百合子は適当なところで話を遮ると、私のところにやってくる。
「いきましょう、うるさくて仕方ないわ」
背中にたくさんの視線が注がれているのを感じながら、私たちは教室を出る。
クラスメイトを冷たくあしらう百合子だったが、私には優しかった。中庭のベンチに腰掛けて、私たちはいろいろなことを話し合った。百合子は大きな会社の一人娘で、しかしその地位と美しさをちやほやする周囲の人間にうんざりしていた。
白詰草で花輪を作りながら、百合子は言った。
「私、本当のお友達が欲しいの」
「今まで友達はいなかったの?」
「いたわ、山ほどね。でも、皆、うわべだけよ。本当の意味では私は孤独だった」
完成した花輪を頭に乗せてくれながら、百合子は微笑んだ。
「でもあなたは特別よ。初めて見たときにわかったの。この子は違う、私のことを理解してくれるって」
私は赤くなり、俯いた。人からこんなに褒められたのは、初めてのことだった。声を振り絞って、私は言った。
「百合子、あなたこそ特別よ」
 百合子は輝くような笑顔を見せて立ち上がり、私の手を引いた。
「私に媚びる必要はないのよ」
百合子は美しかったが、しかし残酷だった。彼女は雨の日に、校舎の壁に張り付いたかたつむりを一匹ずつ引き剥がしては、それを地面に落として踏みつけた。何匹も何匹も、殺戮は続いた。私がやめてと頼んでも、彼女は笑いながらそれを続けた。くしゃりと潰れるかたつむりの音は、なかなか耳から離れなかった。
また、ある日の昼休み、ランチを終えて森の中で遊んでいる時、百合子があるものを見つけた。
「あれを見て」
百合子の声に目をやると、木の根元で薄緑色の羽をした小鳥が一羽、羽ばたいていた。その小鳥は、どうやら巣から落ちて動けないようだ。近寄っても逃げなかった。
「怪我しているみたい、可哀想」
私はしゃがみ込み、そっと小鳥を手のひらにすくい上げた。教師たちに言えば、助けてくれるかもしれない。私は教師たちのいる職員室に行こうとしたが、百合子は私を引き止めた。
「ちょっと貸して」
そう言うと、百合子は私の手から小鳥を奪い、それをじっと眺めた。
「百合子?」
百合子は小鳥を握りしめると、首を左に折り曲げた。小鳥のばさばさという羽ばたきの後に、ぽきん。軽い音がして、小鳥はぐったりと動かなくなった。私は息を呑んだ。百合子はことも無げに言った。
「なんだ、死んじゃった」
呆然と立ち尽くしている私の手をとって、百合子は笑いかけた。
「じゃあこの子のお墓を作りましょう」
場所はどこがいいかしら、礼拝堂の裏がいいわね。百合子は次々と提案してみせた。なんでそんなことを、とか、酷い、とか様々な感情が浮かんだが、どれも言葉にはならなかった。楽しげに話す百合子に手を引かれて歩きながら、私は涙が止まらなかった。
その夜、灯りを落とした部屋の中で私が眠りに就こうとしていると、百合子が
「起きてる?」
と囁いた。起きていると囁き返すと、百合子は私のところにやってきて、ベッドの端に腰掛けた。
「どうしたの?」
起き上がり、ベッドの上で膝を抱えて尋ねると、百合子は真剣な顔をしていた。
「私たち、親友よね?」
「……ええ」
少し考えてしまったのは、昼間のことを思い出したからだ。小鳥に、かたつむりに、蜂や金魚まで、百合子の虐殺は及んだ。私はそれが恐ろしかった。小動物に手を掛ける百合子は、平気で人までも殺めそうな気がしてならない。もしかしたらそれは私が相手でも一緒かもしれない。百合子には、そういうはかりしれないところがあった。彼女の愛らしい手は、血に塗れていた。だが、私は百合子のことが好きだった。怯える心を押しとどめて、私は頷いた。
「嬉しい!」
そう言うと百合子は抱きついて、私の背中に手を回した。ふわりと石鹸の甘い香りがする。そのまま耳元で百合子は囁いた。
「あなたのこと、大好きよ」
「私も百合子のことが好き」
「私たち、親友の儀式をしようと思うの」
「儀式?」
百合子は頷くと、ネグリジェのポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。ぱちんと音を立てて開かれたナイフの刃は、窓から射し込む月明かりを受けて鋭利に煌めいた。
「これで傷を作ってお互いの血を舐めあうのよ」
私は尻込みした。
「怖いわ」
「大丈夫、痛いのはほんの一瞬だから。見てて」
そう言うと百合子はナイフで、指先を切ってみせた。赤い血が丸く玉になって、浮かび上がった。
「さぁ、あなたも」
差し出されたナイフを拒むこともできたのに、それを受け取った私は、一種異様なその空気に酔っていたのかもしれない。何より月光を浴びる百合子のほの白い顔は美しく、神聖ですらあった。
指先をかすめたナイフは一瞬で、ほとんど痛みを感じなかった。じわりと鮮血が滲む。
「指を出して、交換よ」
百合子は私の指を口に含んだ。熱い舌が傷口に触れて、ちりりとした痛みが走った。私も躊躇いながら百合子の指先を滴る血を舐めた。血は濃く、甘かった。人の血を口にしたのは初めてで、むせかえるそれを私は啜った。
「私たち、これでずっと友達よ」
カスタード色の月が覗くその夜は、なかなか眠ることが出来なかった。
こうして私たちは親友になった。何をするのも、どこに行くのも一緒で、百合子は楽しそうに笑った。私はクラスメイトから妬まれて、意地悪をされることがあったが、その度に百合子が助けてくれた。
「見て、百合子ちゃんの金魚の糞よ。いつも一緒。百合子ちゃん、そんなにあの子がいいのかしら」
「しっ、聞こえるわよ。でも二人とも可愛いじゃない、並ぶとまるで絵みたいよ」
「憎たらしいったらないわ。上靴を隠してやろうかしら」
私たちはやり返すこともあった。私が陰口を言われれば百合子はその相手を呼び出して泣かせ、鞄の中に芋虫を詰めた。百合子は意地悪をしてきた女の子の体操袋にネズミを入れたり、泣いて謝るその子の頭を、笑いながら靴で踏みにじったりした。私は止めることもできずに、傍で立ち尽くしていた。また、百合子は私が他のクラスメイトと話すことを禁じた。挨拶をしても、笑いかけてもいけないと。だからやがてクラスメイトたちは、私と百合子を遠巻きに見るようになった。
また、私は幼い頃から裁縫が趣味で、毛糸のマフラーや、キルト生地でテディベアを作って遊んでいた。よくできたベアには名前を付けて可愛がり、ひそかに一緒のベッドで眠っていた。テディベアを抱きしめて眠る私に、百合子は目を光らせた。
「あなた、その年で熊のぬいぐるみと寝ているの?」
「……ええ」
質問の意地悪さに私が戸惑っていると、百合子はふっと目を和らげて言った。
「そう、その子可愛いものね。あなたが作ったの?」
「そうよ! ありがとう、よかったら百合子、あなたにも……」
 最後まで言い切る前に、百合子は
「でも、」
と、私の言葉を遮った。
「でも、ちょっと汚れちゃっているみたいね」
そう言うと百合子は、テディベアに、後ろ手に隠していたコップのミルクをかけた。
「ひどい……!」
「ごめんなさい、怒らないで頂戴」
百合子は私の震える肩を抱いた。ベアはミルクでずぶ濡れになり、生臭く、酷い臭いがした。
「これはあなたの為なのよ。いつまでもそんな古ぼけたぬいぐるみと一緒だなんて、他の子に知られたら馬鹿にされるわよ」
「だからって、こんな」
「私が代わりに一緒に眠ってあげる。抱きしめてあげる。だからそんなものは早く捨てて」
 私の手から百合子はテディベアを取り、汚いものを扱うように端を摘まんでくずかごに捨てると、うなだれる私の顎を持ち上げた。
「大好きよ」
 黒水晶の瞳が私を誘い、閉じ込める。私には正しい答えがわからなくなる。そしていつも同じ言葉を口にしてしまうのだ。
「……私もよ、百合子」
百合子は相変わらず優しいようでいたずらに私を虐め、弄んだ。傷つけられては抱きしめられて、その傷口に口づけられるような生活は、私の精神をすり減らしていった。私は彼女にだんだんと圧迫感と恐怖を覚えるようになってきていた。朝晩のお祈りで私は自分の苦しみを神様に打ち明けて祈ったが、誰にも助けを求めることはできなかった。
そんなある時、私は両親から一通の手紙を受け取った。教師から渡されたその封筒を、自室に帰って開けてみる。中には信じられないことが書かれていた。
夜、眠りにつく前に、私は百合子に話を切り出した。
「ねぇ百合子、話があるのだけど」
「何?」
わたしは舌で、乾いた唇を湿らせた。
「じつは私、転校することになったの」
「……どういうこと?」
警戒した声で百合子は私に一歩、詰め寄った。百合子の黒い瞳に、私が映る。
「両親の都合で田舎に行くことになったの。転勤で。だからあなたとは、もう一緒にいられない」
「そんな……」
百合子は唇を震わせた。瞳にみるみる涙が溜まり、やがてそれはぼろぼろとこぼれ落ちた。
「どうして?やっと本当の友達が見つかったんだと思っていたのに」
「ごめんなさい」
「みんないなくなってしまう……私にはあなただけなのに……」
「ごめんなさい、泣かないで」
罪の意識が心を満たした。私はただ、謝り続けることしかできなかった。
泣きじゃくる彼女の肩を抱きながら、しかし私は密かに安堵を感じていた。奥底では、百合子と離れられることを喜んでいたのだ。百合子の存在は、いつの間にか私には重すぎるようになっていた。過ぎた束縛も、厚い信頼も、私には煩わしいだけだった。
「あなたと離れるくらいなら、私……」
不意に百合子が呟いた。静かだがどこか冷たいその声に、私はぞくりとした。ぎりぎりと背中に、爪が食い込む。
「……百合子?」
百合子はネグリジェの袖で涙を拭うと、にっこり笑った。
「何でもないわ、仕方のないことだもの」
「よかった。転校はまだ先だから、それまでは一緒にいられるから」
「わかったわ」
頷いて、可憐な笑みを浮かべる彼女の虚ろな瞳に、私は気がつかなかった。
次の日の真夜中、もう眠っていた私は百合子にゆすり起こされた。
「どうしたの?」
「礼拝堂で先生が呼んでいるの。一緒に来て」
こんな夜中に? 疑問が浮かんだが、スリッパに足を入れて私は百合子と部屋を出た。蝋燭を持つ百合子と私の影が、暗い廊下に長く伸びた。
礼拝堂に着くと、百合子は鍵を開けた。教師しか持つことを許されていない鍵を、なぜ彼女が持っているのかはわからなかったが、促されて私は中に入った。百合子は後ろ手に、がちゃりと扉の鍵を閉めた。
「百合子? どうして鍵を閉めるの?」
礼拝堂の中は暗く、人気がなかった。何かが臭う。油のような、ガスのような、嫌な臭いだ。
「百合子? 先生はどこ?」
百合子は答えない。俯く彼女の顔は、長い髪で隠れて見えなかった。
「ずっと友達だって、約束したじゃない」
「え?」
百合子の肩が小刻みに震えだす。
「いつもそう。皆嘘をつくの。友達だって、一緒だって言うのに、最後にはいなくなってしまう」
「……百合子?」
「私はあなたと離れたくないの」
「転校のこと?あなたは納得してくれたじゃない」
「いいえ、私たちはずっと一緒にいるのよ。それは運命なの」
「そんなの無理よ」
「わかっているわ……それなら、いっそ」
顔を上げた百合子は微笑んだ。その微笑みは、おぞましい狂気に満ちていた。光る瞳は暗い、底知れない色をしていた。
「私と一緒に、ここで死んで?」
百合子はマッチを擦り、床に落とした。途端に床に撒かれていたガソリンに火がついた。ばっと炎が広がり、辺りは火の海になる。
百合子は首を傾げて微笑む。
「私たち、天国でも一緒よ」
白い頬に、ちらちらと炎の影が踊る。百合子は大きな声で笑った。
「誰か!誰か助けて!」
わたしは扉に駆け寄り、どんどんと叩いた。しかし礼拝堂の扉は厚く、誰かに声が届くはずもなかった。炎はどんどん燃え盛り、火の手はすぐ近くまで迫っていた。熱い。火花が飛んでくる。
「どうしたら……!」
辺りを見渡すと、私は教師の座る鉄パイプで出来た椅子を見つけた。私はそれを掴んで引きずり、ステンドグラスの窓に叩きつけた。がしゃん、がしゃんとガラスは砕け散り、どうやら人一人が通れるだけの穴を開けることができた。穴から抜け出したわたしは、百合子を振り返った。
「百合子、早く……!」
後ろを振り返り、手を伸ばすと、百合子は燃えていた。長い黒髪を舐めるように炎は移り、彼女のブラウスからスカートへと燃え広がった。めらめらと全身が炎に包まれた百合子は、しかしとても綺麗に笑っていた。この世のものとは思えないような、美しい笑顔だった。炎に包まれた百合子は宗教画で見たような、地獄の悪魔の微笑みをしていて、私は息を呑んだ。彼女はまさに、怪物だった。
「百合子……!」
百合子と私の目があった。百合子は目を細めてにっこりと微笑み、口を動かし何かを呟いた。
「何を言っているの……!?」
炎に焼かれた言葉は、聞き取れなかった。そんな。胸が潰れるようで、私は百合子に手を伸ばした。百合子は笑顔のまま、そしてスローモーションのように、ゆっくりと、前に、倒れた。
「百合子!」
その時がらがらと瓦礫が崩れて、礼拝堂は焼け落ちた。
あの後、警察と教師からの質問に何と答えたのかは覚えていない。私は放心状態で、心ここに在らずだった。友達だったのに、百合子が、どうして、と繰り返すばかりの私を教師たちは見かねてすぐ部屋に返してくれた。
一人の暗い部屋に戻って、私は百合子のベッドに腰掛けてシーツを撫ぜた。乾いたシーツはさらりとして温かい感触で、薔薇と石鹸の混じったような百合子の香りがした。その匂いを嗅いで初めて、私は涙を流すことができた。
それからこの事件は報道されて新聞に載り、学校は閉鎖されてしまった。私もよそに移り、また別の学校で、また別の友達を作った。時が経つにつれて、あのおぞましい記憶は薄れていった。
それでも炎を見ると思い出す。とても美しく、そして残酷だった友達の最期を。今際の言葉を、私は聞き取ることができなかった。あの時彼女は、百合子は何と言っていたのだろうか。八文字の言葉。私は永遠にそれにとらわれ続ける。
「私たち、ずっと一緒よ」
百合子の願いは叶えられたと言えるのだろう。それを考え始めると、私は今でもあの少女の時の記憶に囚われて、身動きがとれなくなってしまうのだから。

僕、本当はいろんなこといつも考えてたのに

今日は私の計算高いところについて話そうと思う。例えばの話。私は彼氏からよく抜けているといわれるが、彼女は私のことをこの間会ったときに「しっかりしているね」と言っていた。私はこの彼女からの評価について不満だった。不満と言う言い方は適切では無いかもしれない、不満というか困惑した。それは私の評価にはあまり類を見ないことだったから。だが彼女は昔から私のことを度々しっかりしていると言っていた。なぜこの評価がこんなにも私の中で引っかかるのだろうか。少し自分を考察してみた。

 

すると私は昔から、昔から?いつの間にか自分を弱いものとして表現しアピールすることに慣れてきていた。何故かと言えば私はある時気づいたのだ。弱者として見られた方が、圧倒的に得であると。弱ければ守ってもらえる同情してもらえる優しくしてもらえる何も損をすることがない。見栄を張って強がるより不安定でだめな自分を表に出したほうがわかりやすいし何より楽だった。この場合の弱者と言うのはメンタルヘルスと言う社会的弱者だったり女と言う立場の弱さだったりした。わかりやすい力の弱さへりくだれば表立った争いが起きることもない言葉で言うと大袈裟だが、多分同じようなことを実際にあまり意識せずにやっている人もいるだろう私だけでは無い多分きっとおそらく。

 

共依存だとかリストカットだとかオーバードーズだとか宗教拒食援助交際不登校いじめ精神科緊急搬送自殺未遂アダルトチルドレン幻聴幻覚妄想被害妄想トラウマそういう一見重そうに聞こえる自分の役に立ちそうな過去の話は全て利用してきた気がするステータスだった自慢だった。

そういうのを利用せざるを得ない状況だったと言えば聞こえは良いかもしれないが要するに私は計算高かっただけだ、ずる賢かっただけだ。

私の間抜けなところは間抜けさを装った暗黒な真っ黒い腹の中だ闇だ。

父の病気自分の休学その辺まで自分の不幸の黒いものにしている。どうしようもないわかっている誰も私を責めない誰も私を責めない。

 

彼女は私のことをとてもよく理解してくれているからきっとわかられてしまったのだろう私はこんな人間であると言う事を。どうして彼女は私を見捨てないんだろう。こんなに利己的なのに信じると言うこともよくわかっていないの

 

私は不器用な人間だしゃべるのもうまくない人と関わるのもうまくない得意な事はあまりないでももしかしたらそれは錯覚だったのかもしれない私の1番得意な事は自分自身を騙すことかもしれない私が騙しているのは彼氏でも両親でもなくて自分自身なのかもしれない、悩んでみせる、これも一種のポーズだ、本当のことなど誰にもわからない、誰も気にしていないのかもしれないでも私は気にしなければならないだって私の人生だから私が生きるしかないのだ、大げさでも悲観的過ぎても。

 

このブログはというか今日のこの文章は音声入力システムで作っている。割合便利だ。というのも何しろ目が見えなくて困っている。今までのオーバードーズのせいかよくわからないが奇妙な話だが目を開けてられないのだうまく。

だから誤字脱字があってもどうか許してほしい

 

改めて今日の日記。

彼氏と会ってスイパラで食べ放題を食べたりとらのあなに行ったりした。なんとも俗っぽい。でも楽しかった。彼氏とは1週間ぶりに会った。幸せだった。やっぱり彼氏のことが好きだ。まるで小学生みたいな感想文。私の感性はあるいは中学生だと思っているのかもしれない。永遠に思春期。

 

明日は何をしよう。ちなみに今日は母の日だったから花束を買って帰りました。

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いつか天魔の白ウサギ

この自己嫌悪がひどい2017

ブログ消してツイッター黒歴史クリーナーにかけたくなる気持ち、生き恥晒し、発狂鳥人

赤く白く塗りつぶしてほしいし、何のために生まれて何をして生きるのか答えられないし、恐れを知らない戦士のように生きるしかないならもう一生家から出たくない。

わたしの存在価値とは何か?あなたの生きている理由とは何だ?大丈夫、わからなくても全く問題はない。働き、食事をして、眠り、人とコミュニケーションが取れれば毎日はやり過ごせるし、何ならたまに働かず、何も食べず、ねむらず、家から一歩も出ずに誰とも話さなくてもそれこそ死なない限りは生きているのだ。しの反対が生ならば、今ここにいるわたしは生きている。あなたも生きている。それ以上でもそれ以下でもない。何も思い悩むことはないはずだ。

それでも欲張りなわたしはどうせ生きているならばと人生に何らかの意味、価値、理想、ゴールを掲げたくなってしまう。確かに目標がある方がメリハリもつくし、努力もしやすい。だがわたしの掲げる目標はいつも行き過ぎた理想主義により重たく大きすぎて、結果わたしの首を絞めてくる。まさしく計画倒れ。幾度となく作り上げては崩れた理想郷の跡地は荒れ果て、わたしにはまたもや口先だけの根性なしの称号だけが残り、達成できなかった目標に対して生まれる自己嫌悪、それからの逃避、苦い経験によりますます新しいことに挑戦できなくなるの負のループに陥ってしまう。もっとも悪いことは自分でもそれがわかっているのに抜け出せないことだ。この循環は互いの尻尾を咥えた蛇のようにぐるぐるとわたしの内側だけで起こっている。始まりもなければ終わりもない。自覚はあってもそもそも抜け出す努力をしているのかも定かではない。具体的な行動にでるのは昔から苦手だった。改善、進歩、成長、どれも抽象的だ。できる日は来るのだろうか。

 

論理立てて物事を話すのも苦手、わたしの説明は二転三転した挙句、車輪が外れてどこかに転がっていく。

わかるのは誰とも話し合いなんかしたくないし、悩みを打ち明けて望んだのとは違う反応がかえってくるくらいなら全て抱えたまま死んでしまいたいということだ。内向的、よく言われる。心を開かない、よく言われる。我儘、きっとそうなのだろう。

わたしも大概極論をいうが、それにしても上には上がいるものだなと思う。近い例がわたしの母。学校を休むと「じゃあもう辞めろ」「辞めて働け、家を出て行け」、家事を手伝わないと「そんなにお母さんを早死にさせたいのか」「誰一人いうことを聞かない」「もうお母さん辞めたい」、リストカットをすると「そんなに死にたいならしんでしまえ」と包丁を渡してくるなどと激しかった。わたしがこの歳になってもある程度の暴力はある。最近は眼鏡を捻じ曲げて壊されて、出掛けられないようにされた。なんていうか、激情したときの母は何をするかわからない。わたしもだいぶアレだが、この木にしてこの実だなぁと思う。言ったらブチ殺されるからいわないけど。

でもわたしたち四人の子供を抱えながら、高校のPTA会長もやり、実家の会計や事務の仕事をこなし、入院中の父を見舞い、家事や送り迎えをしているのだから毎日何もせずに16時間くらい眠っているわたしにキレたくなるのも当然だと思う。特に今、父のことで母は追い詰められている。ただ、「よくこんな状況であんなひどいこと(わたしの4月の多量摂取からの緊急搬送事件)できたよね」と糾弾されたときはちょっとつらかった。こんな状況だからやってしまったんだけどなぁという気持ち。ODもリスカもなんだかんだ好きでやっている:やらざるを得ないのが半々だ。「なんでこんな子に育ってしまったのか」わたしだってなりたくてなったわけじゃない。やっぱり言わずに黙って叱られていたけれど。

心に刺さった鋭い言葉は抜くと死んでしまうので、深く考えずに思考を止めて母に焦点を合わせずに黙っている。母がいうだけいって気がすむのを待つのだ。どんどん涙が出るから定期的に鼻をかみながら、ぼんやりしてやり過ごす。わたしは狡い。それでも最近はそろそろお互いに限界のようで前回母に怒られたあとわたしは久しぶりに市販薬をODしたし、母は台所で包丁を握りしめて泣いていた。もう死にたいともいわれた。あなたのことを考えるとストレスで具合が悪くなると。明らかに母の方がヤバいのでどうにかしてあげたいけれど、21年間のすれ違いは大きくてなかなか難しい。

母はいつもは理性的で情に厚く、優しい。相談に乗ってくれる。いろんなことを手伝ってくれる。美味しい料理を作ってくれる。そして心配してくれる。常識もある。器も広い。人望もある。フレンドリーだ。昔から心臓が悪く、具合も悪いときでもわたしたちの面倒をいつもみてくれた。わたしは母が好きだし、母もわたしをきっと好きで愛してくれている。母がいなくなったらわたしはとても悲しい。

だから怒っているときの母には困惑する。わたしを殴ったりものを壊したり大声で責め立てる母はわたしの知っている母なのか?同時にわたしは母のその怒りが決して理不尽なものではないことも知っている。単純に純粋に100%わたしが悪い。申し訳なく思うのに、それを直せないのはなぜなんだろう。約束をやぶり、いうことを聞かず、母を失望させてばかりいるのはどうしてなんだろう。

わたしは母には弱音は吐けない。つらかったり、死にたくてもそれをいえない。いいたくないし、多分わたしが一番理解してもらいたいのが母なので母にその気持ちを否定されてしまったら終わりだと漠然とわかっているからだろう。

母との関係はいろいろ拗らせすぎていて、もうよくわからない。深いようで浅い自己分析しかできないわたしには自分とも向き合えていないのに、母と自分の関係性を見つめなおすことなどとてもできそうにない。やる前から逃げ出したくなってしまう。

それでもいつかは相互理解をしたい。だってわたしは母が好きだし、実の母は一人きりだし、それはきっとわたしのメンタルヘルスの改善にも繋がるだろうから。

いうだけならタダという言葉もある。一方タダより怖いものはないともいったりもする。どちらも一理あるなと思いつつ、がんばりたい、いろいろ。(まとめ方が雑)

 

明日の予定は未定だが、神経内科と歯医者と大学に近々行く。日曜日には彼氏とも会う。

休学して暇になったけれど眠ってばかりいるから、夢をたくさんみて精神は活動している。

いつかわたしのみる夢についても言及したい。

 

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牛乳瓶で体育教師ぶん殴る

昨晩ふと思い立って母に捨てられたブロンをゴミ袋からかき集めて洗い20tODをしてラリり、彼女と朝まで通話をしていた。8時間半くらい話したと思う。睡眠時間か労働時間と見紛う履歴だ。

 

彼女との電話を切ったあとはエフェドリンとカフェインの抜けた気だるい身体を持て余しながら、体重を計り入院している父の見舞いに行く母を送り出し、再びベッドに横になっている。

 

これはわたしのさもしい自慢話だ。

161cm、42.8kg、体脂肪率16.6%。ガッツと筋肉と体力に欠けるこの身体が痩せ細れば痩せ細るほど、わたしは自分の物理的重量に満足感を覚える。数えられる肋も骨張った手首も浮き上がる血管も愛おしい。薬、OD、食欲減退、痩せたい痩せたい痩せたい、できる限り。

生理もあるしご飯も美味しいし間食もするから、わたしは無理なダイエットをしているわけでも拒食症でもない。過食しても吐き出さないし、カロリー計算も糖質制限もしない。

ただ、身体が軽くなるとそのぶん掛かる重力も減り、わたしは単純に幸福になれる。だって痩せたら嬉しいし。細い方がかわいいし。

 

彼女はわたしを抱き締めると「折れてしまいそう」だと言う。わかりやすくそしてあり得ない形容詞、でも嬉しい。彼氏は50kg以下の女の子は女の子に認めない、太れという。わたしの最高体重は48kgで、だから彼氏の願いを叶えるのはそこまで難しくないかもしれない。でもわたしは太りたくない。だってわたし自身が太った自分を好きではないから。

 

去年の夏はトピナという精神薬で39kgまで痩せた。自分でもスタミナがないのがわかったし、ゴスロリを着て夏の暑さで揺らぐアスファルトの地面を踏みしめて歩くと、激しい日差しの照り返しと熱された空気に身体はなぶられてフライパンの上のバターのように溶けてしまいそうだった。

食べること飲むことは生命補給だけれど、男や煙草や薬や酒や、わたしがうつつを抜かすことができるものは山ほどあったのでわざわざ食欲を埋める気にはならなかった。

夏は躁、月の頃はさらなり。

 

近状報告。

5日、彼女とのデート。

7日、彼氏とのデート、妹と新木場でヒトリエのライブ

今日はメンタルクリニックに通院して彼女の恋人にお会いする。

 

具合が悪くならないといいな。

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エチルアルコォルの睡り

高校生の頃まで家に無職でアルコール依存症で結婚に失敗したお父さんの兄弟の方のおじさんが住んでいた。

 

もともとお父さんの実家を増築して住んでいたから二世帯住宅だったし、わたしたち家族は二階に住んで、おじいちゃんおばあちゃんおじさんは一階で食事のタイミングもバラバラだったからおじさんとはあまり会う機会もなかったし気にしていなかった。

 

おじさんとの記憶に残るエピソードは数えるほどしかない。そのうちの一つは、中学生の時わたしは友達とバンドを組んだのでベースを買ってもらったら、お父さんが「おじさんも昔ベースをやっていたよ」というので弾いてもらった。

おじさんの部屋にベースを持っていくと、おじさんは「何年振りかな」といいながら早弾きやスラップやわたしにはよくわからない技術を披露してくれた。曲をリクエストした訳ではなったけれど、素直に感激したしわたしもきっとおじさんも満足した。

夜だったからすぐにおやすみなさいをして、おじさんの部屋を去った。

 

おじさんの部屋は二階にあるわたしの部屋の窓からよく見えた。部屋はいつも夜遅くまで明かりがついていた。

 

おじさんはわたしが生まれた時から犬を飼っていた。最初はヨークシャテリアで、その子が亡くなるとトイプードルのメスを飼ったけどどちらもあまり世話はしていなくて、おじいちゃんおばあちゃんが面倒を見ていた。

 

おじさんは一度女の人を家に連れてきた。紹介もしていたし、お正月にきたり、式を挙げない結婚みたいなものだったんだろうけれど詳しくはよく知らない。小太りで茶髪のバツイチの女の人だった。名前はもう覚えていない。一度家庭を持たないのに結婚する意味はあるのか尋ねたことがあった。おじさんは苦笑いしていた。わたしも我ながら嫌な質問だったと思う。

 

おじさんはアルコール依存症で入院をしていたことがあるらしかった。詳しくは知らない。でも退院しても禁酒はできていなかった。酔って廊下で転び、手首を骨折したりしていた。お母さんはちょっと呆れていた。わたしはそれなりに不憫に思っていた気がする。わからない。

 

おじさんはわたしが高校生のときに亡くなった。一人で酔って眠っているときに吐瀉物が喉に詰まって亡くなっているのをわたしの両親が発見した。死に顔は恐ろしかったらしいけれど、葬儀屋さんはわたしたちの眼に映るときには綺麗に修正してくれていた。ちょっと顔色の悪いいつものおじさんだった。

 

おじさんが亡くなった知らせをきいたとき、わたしは泣いた。急にとてつもなく悲しかった。おじさんともっと話せばよかった、関わればよかったとわかりやすい後悔が渦巻いた。

 

ウィスキーの小瓶を一日で開けたり、昼間からお酒と薬を飲んでいるとおじさんもこんな気持ちだったのかなと考える。お酒を飲んでもとりたてて楽しいわけではないのだ。為すすべはない。少し気持ちは楽になるから脳を麻痺させて、胃を焦がす液体を煽る。なくなる。開ける。注ぐ。流し込む。泥のような酔い、陰鬱な、矛盾した高揚。つまらない想像と同調だ。人の苦しみは想像することはできても、完全に理解することは誰にもできない。だから諦めていいことにはならないし、わたしにも何かもっとできることがあったんじゃないかと思ってしまう。だってわたしはこんなにいろいろな人に支えられているのに、苦しいし寂しいから。

 

わたしはおじさんにとっては他愛ない姪にしか過ぎなかっただろうけれど、家族なんだから何かの救いにはなりたかった。誰かを救おうなんてこと自体エゴだけど。そして救うならばまずは自分からだろう。

 

わたしはお酒を一人で飲んでも酔いはするけど、でも、楽しくはない。

おじさんとお酒が飲めたらよかった。